COLUMN
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Adobe × TIS  Trend & Illustrations

2023.05.29

Trend & Illustrations #16/小池アミイゴが描くPsychic Waves

アドビではビジュアルのニーズを様々な角度から分析を行い、そのトレンド予測をトレンドリポートとして毎年発表しています。
ビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画「Trend & Illustrations」。
2023年のテーマの一つ、「Psychic Waves(サイキックウェーブ)」を、小池アミイゴさんが担当しました。イラストレーターという枠組にとらわれず、ときにはプロジェクトの根本的な課題から考える小池アミイゴさんに、イラストレーションの力についても聞きました。

プロフィール

群馬県生まれ。
セツ・モードセミナーで絵と生き方を学ぶ。書籍や雑誌、広告、音楽家とコラボレートした仕事多数。1990年代はCLUB DJを兼ね、デビュー前夜のクラムボンやハナレグミなど多くの表現者の実験場を創造。2000年以降は日本各地を巡り、ライブやワークショップ、展覧会開催など地方発信のムーブメントをサポート。2011年3月11日以降、東北各地を巡り絵を制作、個展「東日本」を開催し続ける。絵本に『とうだい』『はるのひ』(日本絵本賞受賞)など。近刊に台湾で3週間の取材を行った『台湾客家スケッチブック』がある。

http://yakuin-records.com/amigos/
https://www.tis-home.com/amigos-koike/

クライアントを想定したAdobe Stockの作品

ーー2023年のビジュアルトレンドは「Psychic Waves(サイキックウェーブ)」、「Animals and Influencers(アニマルとインフルエンサー)」、「Real is Radical(事実は時に挑発的)」、「Retro Active(進化するレトロスタイル)」。
今回、本企画に参加される前にTIS会員の方々と意見交換されたそうですね。

 サイトウユウスケさんやタケウマさんらと話をしたんです。その上で「テーマを描く」というのはもちろんだけど、クライアントがいることを想定して考えていこうという流れになりました。ぼくは学校とか地域に関わる仕事が多くて、日常的にローカルなことを考えるようになっています。タケウマさんからもいろんな地域でイラストレーションを必要としている人がいるよねという話があったので、そういう人たちに使ってもらうイラストレーションと仮定しようというところから出発しました。その前提で、今年のビジュアルトレンドから何をテーマにするかと考えたときに、あえて普段描いてないものを入れてみようと思って「Psychic Waves(サイキックウェーブ)」を選んだんです。その上で社会の課題、たとえばSDGsもそうだし、LGBTQとか、その辺の課題に応えられるものは何だろうと考えて作ったのが今回の作品です。

 日頃、地方や地域の仕事と関わってると、現場の方々はみなさん、世の中をいい方向に持っていきたいという気持ちで仕事をされている。でも過程の話ばかりを頑張っちゃって、目の前の課題をクリアしたらその先をどうするのか、どうなるのかというところまで考えが至ってないんです。それを導くのにイラストレーションは何か効果があるんじゃないかと思ってるんですよ。
 

地域の課題に取り組む

ーー地域のお仕事というのはどんなことをされているのですか? また「過程の話ばかり頑張っちゃってる」というのはどういう部分でしょうか?

 東日本大震災以降、やっぱりローカルが元気じゃないと、日本全体、ひいては世界が幸せにならないよねっていうのを感じてるんです。東京でイラストレーションの仕事をやってると、どうしても広く多くの人に伝えるということを意識してしまって、本来きちんと届けるべきところに届いてないような気がします。

 今、個人相手のものから行政まで、地方の案件を10件ぐらい同時進行でやっていて、徐々に地方の仕事が増えています。そこで感じるのはみんな情報ばっかり先行していること。例えば「SDGsをやりましょう」となった場合に、SDGsの17の目標の中の「環境」の問題には力を入れてるけど、誰かが示した数字を達成するためだけに働いちゃって、それ以外のテーマに目が行かなくなっちゃったり。そもそもその人たちが働いてる環境がブラックだったり。ある部分は頑張るけど、それが実現したらどんなことが起こるんだろうっていう大きなターゲットを共有していないことが多いんですよ。そのターゲットを共有するのに、イラストレーションって、活躍できるんじゃないかと思ってるんです。
 地域の課題って、何か一つの問題が解消すれば解決するわけじゃなくて、いくつかの課題が複合的に重なってある。そうした課題が複数あること、それぞれの課題に対する達成度、課題同士の関係性などが直観的に共有出来るイラストレーションを作れたらいいなと思っています。


◉地域と関わった仕事

The Centered Self

「そでがうらアンバサダー」ポスター3種
千葉県袖ケ浦市/2018年
千葉県袖ケ浦市のシティープロモーションのためのもの。市の若手職員とワークショップを行い、1人ひとりの心にある嘘のない袖ヶ浦の魅力をビジュアル化した。


ーー普段の仕事でも小池さんは、依頼以上のものを掘り起こして提案してくれますね

 編集者には喜ばれますね。デザイナーにとっては、思ったものを描いてくれない人、みたいになって仕事がこないけど(笑)。でもぼくと一緒に仕事をすると、楽しいよ(笑)。

心地よいストロークの下地の上に描く

ーー今回の具体的な制作方法を教えてください。幹と枝だけの樹の絵と、さまざまな花の絵があります。

 今回は板に描いたのですが、まず自分の気持ちいいストロークで下地を塗って、その上から白で塗り、木を描く。そうすると自分の気持ちよさが内包されたフォルムが出てくるんです。それで「軽くトランスするぜ!」みたいに気持ちがのって、モチーフを描ける。花も同様に描いています。花は1種類ずつ描いたものをスキャンして切り抜いてるんですが、ベジェで切り抜いていく方法ではなく、背景を消しゴムツールで消して、切り抜きにしているんです。そんなやり方はあまりしないと思うんだけど。消しゴムの柔らかさ100で大きな部分を消して次は80でやって60でやってって。だから花のフォルムは切り抜く前よりやや曖昧になるんだけど、それがかえって、下地の情報や余韻も感じられるものになって、気持ちのいい形になったと思います。

 モデルというわけではないですが、実際の樹や花を見て描いています。樹はうちのベランダで咲いてたローズマリー。花は直島で描いたり、撮影した花をもとにしているものが多いですね。ちょうどこの仕事をやる時期に直島に滞在して子供向けのワークショップをやっていたので。自分の完全な内側から出るものっていうよりも、自然の造形を見ると、自分のなかになかった形が出てくるのが面白い。
 

Adobe Stock作品「課題解決を目指す樹」

課題解決を目指す樹

7種類の花

 

制作したのは樹と7種類の花。ユーザーが花を樹に組み合わせる

絵の制作プロセス

The Centered Self

板に気持ち良いストロークで描いた下地
 

The Centered Self

実際の樹や花、写真をもとに描く
 

The Centered Self

切り抜き前の花ともとになった写真


ーー樹とそれぞれの花を、ユーザーに組み合わせて使ってもらうということですね。

 樹は地域で目指す幸せのあり方の軸。花はそれぞれ何かの課題を象徴しているんです。 使用例を考えたので、参考にしてもらえればと思います。


◉使用例1

The Centered Self

花の絵それぞれに解決すべき課題を当てはめる。仮に「防災·防犯対策」「子育て支援」「環境対策」「福祉·保健衛生」「地域活性化·文化振興」「教育」「都市基盤整備」とする。7本の樹にも同様の課題を当てはめ、それぞれの樹のテーマがどれだけ育っているのかをビジュアル化する。花を置く位置(上か下か)にも意味を与えられる。


◉使用例2

The Centered Self

1本の樹をある任意の地域や街、学校と仮定する。そこでの課題に対して今何が優先的に行われているのかを、ランダムに置かれた花から直観的に感じてもらえるビジュアル。


ーー環境が変わると描く意識も違いますか?

 そうですね。直島のワークショップは島のお母さんたちが運営してる学童保育でやったんですけど、彼女たちと直島の課題についても話をするわけですよ。世界から注目されるアートの島でも、子供たちにとっての課題はあるんですよね。それを聞いてから描くと色やデザインに何か現れると思います。東京でかっこいいものを作ろうっていうのと違って、彼女たちの言葉をその場で絵にしたような部分もあるんです。

社会の中で機能するイラストレーション

ーー小池さんの場合、現場主義といいますか、その場で感じたものがすごく入ってくるということでしょうか?

 そうですね。だから自己実現的な欲求はなくて、社会の課題解決のためにイラストレーションを作ることに喜びを感じています。


ーーだから地方の仕事が増えているんでしょうか?小池さんに会った人がみんな変わっていくのではないかと思います。

 日本で暮らす人の幸せの形を更新させようという気持ちがあるんです。壮大でしょう? でもイラストレーションとか絵には、そういう力があると思うから、そこは諦めずにやりたい。イラストレーションの力を信じてるんだよね。


◉地域と関わった仕事

「台湾客家スケッチブック」

台湾客家スケッチブック
KADOKAWA/2022年

台湾の少数民族「台湾客家」のアイデンティを再構築するため、日本人の小池さんが3週間取材をし、その印象や旅のエピソードをイラストレーションやエッセイにし、日本版と台湾版にそれぞれまとめた。


ーーその点でアートとイラストレーションの違いはどういうところですか?

 最近のアートの本質は「場作り」じゃないかと思ってます。イラストレーションは直接的な課題解決につながると思う。たとえば都会の一人暮らしの男の子の孤独を埋めるために、グラマーな女の子の絵を描くっていうのも、ある種の課題解決。交通事故多発地帯の通学路に「飛び出し坊や」を作るというのもそう。「飛び出し坊や」があるだけで、みんな笑顔で街を歩いて、車に気をつける。そういうことになってくると思うんだよね。すごいイラストレーションって強いなと思います。


ーー今後の展望を教えてください。

 イラストレーターとして依頼された仕事を30年以上やってきただけ。でも間口の広げ方みたいなところを考えていて。地方だととくに、そもそもイラストレーターへ仕事を依頼すること自体がわからない部分もあるから、本当に必要な人がアプローチできる人間になろうかなって思っています。個人からの依頼もふくめて。それが溜まっていくと相当強い表現者になると思っています。これからずっとそういう感じだと思います。


ーー最後にAdobe Sockに作品をあげることを想定した今回の制作はいかがでしたか?

 あらためて「ユーザーを思う」ことの面白さを感じました。それはユーザーに媚びるようなことでは無く、「新たな社会的を価値を共に創って行こう」みたいなポジティブなマインドです。そうしたマインドを共有することで、Adobe Sockというフィールドがビジュアルの民主化のポータルとして発展したらいいなと。誰もが何か美しきものに簡単にアクセス出来、改題解決のために使うことが出来る。そうした行為の足場が確かなものになったら、「ではアミイゴさん、この先でまだ見たことのないものを一緒に創ってゆきましょう」なんてお声かけを頂ける、そんなStockと新たなクリエイティブの循環が生まれる可能性をAdobe Sock に感じています。

 

 

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