COLUMN

Adobe × TIS  Trend & Illustrations

2022.12.05

Trend & Illustrations #15/原口祥絵が描く「Powerfully Playful」

アドビではビジュアルのニーズを様々な角度から分析を行い、そのトレンド予測をトレンドリポートとして毎年発表しています。
2022年のビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画「Trend & Illustrations」。
第15回目のテーマ「Powerfully Playful(パワフルでプレイフル)」を、ポスターや本の装画などで活躍する、素朴な世界観が人気の原口祥絵さんが制作。作品について伺いました。

プロフィール

 
高崎市出身。
高崎経済大学を卒業後、セツ・モードセミナーに2年間通った後、MJイラストレーションズ(9期生)入学。第10回、第11回TIS入選 、ギャラリーハウスMAYA装画コンペvol.17入選、 2018年ペーターズギャラリーコンペ峰岸達賞受賞。

https://sachie-maru.ji
https://www.tis-home.com/SACHIE-HARAGUCHI/

The Centered Self

「静」と「動」、2つの「パワフル」

ーートレンドレポートのテーマの中から、「Powerfully Playful(パワフルでプレイフル)」を選ばれた理由を教えてください。

コロナ規制が緩和され、自分自身が、コロナから解放されるような、気分が浮き立つような気持ちになりたかったので選びました。ちょっとアホになる ぐらいに明るい世の中を進んでいけたら良いなという気持ちを込めて描きました。

ーー純粋に描きたいテーマだったんですね。

はい。気持ちを素直に出したのが、最初に描いた黄色い色面の作品です。パワフルさを全面に表現したいと思い、老若男女、動物や植物も元気な様子で、「アホになろう」というような気持ちで描きました。飛び散る噴水は躍動感、箱は閉鎖されていた日常から思いっきり飛び出そうというイメージです。真ん中の男性のTシャツはレインボーカラーではないんですが、ジェンダーレスという意味合いも込めてみました。

ーー鳥や四葉のクローバーも平和の象徴的な感じですね。ダンスというより飛び出てきている感じ。

ダンスの画像も参考にしましたが、やはり解放、飛び出す、自由かなと。 ただ時間が経つと少し気持ちが変わり、もしかしたら自分が求められている表現ではないのかと。そこでもう1点描いてみましたが、少しパワーが減ってしまった感はあります。
 

The Centered Self

1作目「解放だ~!」


ーー「自分らしさ」を原口さんご自身ではどのように分析されているのでしょうか。

分析していませんでした。ただ、絵を描く友人たちからは私の画風の特徴で思い浮かべるのは「点々」のある風景だと。いわゆる点描ですね。それが1点目にはなかったので、入れた方が良いのではないかとアドバイスを受けたので描いたのが2点目です。2点目は悩みながら描いたところもあります。

ーーどういう部分が悩みどころでしたか?

まとまりすぎているというか。もっとはっちゃけたかったんですが、それができなくて。構成力が足りないといえばそれまでですが。
 

ラフ1

2作目ラフ
 

The Centered Self

2作目「やっと出来るよ。」


ーーこの構図はどのようにして生まれていったんですか?

普段の制作ではPinterestなどでヒントを得ています。今回はニューヨークのセントラルパークやダンスをしている人、走っている人など、自分が描きたいイメージで検索しました。木や川は自分のテイストで描き、背景にビルを入れて都会的な雰囲気も加えたつもりです。都会がパワフルというわけではないですが、人の営みが活発な感じがするので。

ーー主役になるような目立つ人物がいないのが原口さんの作品らしいと思いました。画面作りや構成という面で考えていることはありますか?

あまり深くは考えていないですが、1人1人に気持ちを込めて描いてます。

ーーそれぞれの人がいろんなスポーツをされている。

生活を楽しんでいるような雰囲気がでるかなと思ったので。

ーー2点目を描いて、これはうまくいったな、面白く「パワフルでプレイフル」を表現できたなと思うのはどういうところですか?

「パワフルさ」は1点目に比べて弱まった感はあります。そこで逆立ちしたり、1人1人の静かな動きが集まり、そしてそれが大きくなり「パワフル」に繋がればと願いながら描きました。

ーーいろんな意味合いの「パワフル」がありそうですね。

ありがとうございます。木々が勢いよく成長するとか、鳥が飛んでいるということも「パワフル」につながれば良いなと願います。

ーーこの「点々」を描くのはどういう経緯で生まれてきたんですか?

元々はベタ塗りで描いていましたが、いろんな方の展示を見て影響を受けました。熊田千佳慕さんが特に衝撃を受けた人の一人です。細かい描写で昆虫や草花を表現されていて作品に深い愛を感じました。また銅版画家でTIS会員の水上多摩江さんの作品も大好きです。点描のスタイルはそこから始まったかなと思います。

ーー「点々」がご自身にしっくりくるようになった理由は?

装丁家の鈴木成一さんの装画塾に通っていた時に、「点々」で描いた絵が初めて仕事に繋がりました。三浦綾子さんの小説の装画でした。鈴木さんから現代的な視点で描いて欲しいということで、現代的な視点をと考え、たくさんの絵を見ているうちに「点々」で描いてみました。それが仕事なり、少し自信がつきました。
 

「自我の構図」三浦綾子著

「自我の構図」三浦綾子著
小学館/2014年

先輩やデザイナーの意見を参考に

ーー原口さんはいろんなイラストレーションのスクールに通われてますね。

大学を卒業後一般企業に就職しましたが、しっくりこなくて、手に職を持ちたいと思っていました。カメラマンのアシスタントをやったりしたこともありましたが、この時期は何がしたいのかわからなくなり自分を掘り下げた結果、絵を描くことに辿り着きました。
そんな中でセツ・モードセミナーに出会い、衝撃を受けて入学しました。卒業後どうすれば良いのかわからず、セツの友人に峰岸達さんが主催するMJイラストレーションズがあると聞き入学、そこでイラストレーターという道を知りました。
同時に鈴木さんの装丁塾にも通いました(3回の講習)。仕事の現場の話を聞けるのが興味深かったです。

ーーMJイラストレーションズではどのようなことを学ぶのですか?

毎回課題があり、課題作品を先生が講評するスタイルです。時々現役のイラストレーターがいらして現場の話、作品の講評もしてくださることが刺激でした。また峰岸先生は的確に講評して下さり、当時はすごく心に刺ささりました。そこからコンペなど応募するようになりました。

ーー刺さった言葉で覚えているものを教えてもらえますか?

「君の線は素人だな」、「色の塗り方が汚い」など。指摘されたことを直し、着実に守っていったらTISのコンペに入選することができました。

ーーイラストレーターとして仕事をするようになって、どうですか?

とても嬉しいです。しかし、デジタルに不慣れなので、ラフの段階で大きさや色を変えるとなるといちから描き直しになります。デジタルに慣れていれば仕事が早く進むと痛感しています。

先日は坂のある街のお仕事を頂きましたが、パースを追求したくて建築家の兄に助言をもらい、何とか描きあげました。デザイナーさんとロケハンしたり、ラフのやりとりを何度もして完成した作品は感慨深かったです。客観的な意見の重要さ。自由に描くのと違い、依頼者の要望に応えなければいけないという使命感と醍醐味があり、自分の人生になくてはならないものだと思ったりしています。
 

フリーペーパー『まちまち』表紙

フリーペーパー『まちまち』表紙
小田急不動産/2022年  

 

 

ーーお仕事は装画が多いのですか?

最近はデパートのポスターとか不動産会社のパンフレット広告、ハンカチのデザインをやりました。ポスターの仕事は楽しかったのでもっとやってみたいし、洋服の柄、ファブリックもやってみたい仕事ですね。
 

 

 

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