COLUMN

Adobe × TIS  Trend & Illustrations

2021.12.21

Trend & Illustrations #10/ダイモンナオが描く「Breath of Fresh Air」

アドビではビジュアルのニーズを様々な角度から分析を行い、そのトレンド予測をトレンドリポートとして毎年発表しています。
2021年のビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画「Trend & Illustrations」。
第10回目のテーマは「Breath of Fresh Air – 新鮮な空気を胸いっぱいに」。しなやかな輪郭線と配色で植物や風景を描写するダイモンナオさんに、作品についてのお話を伺いました。

 

プロフィール

 
高知県生まれ、京都市在住。
2008年より、イラストレーターとして活動を始める。
主な受賞歴に、イラストノート「ノート展」第8・9回入選、「PONTOON」装画コンペ vol.5大賞、イラストレーション「ザ・チョイス」第184回準入選(藤本やすし氏審査)、2014年「ボローニャ国際絵本原画展」入選。

http://www.daimon-nao.com/
https://www.tis-home.com/Daimon-Nao/

 

「瀬戸内海の風景」2021年

「瀬戸内海の風景」2021年

旅先で観たい景色

──「Breath of Fresh Air – 新鮮な空気を胸いっぱいに」というテーマを選んだ理由を教えてください。

自然の風景を描くことが好きなので、今回はそのテーマを選びました。京都に住みながら、町家でアトリエ・宿泊・レンタルスペースを合わせた「草と本」という場所を運営しているのですが、普段よく人と会います。人に気を遣うのか、遣ってもらっているのか、いろんな人と接しているとエネルギーを使うので疲れが知らないうちに蓄積されていて。そんなときに自然や緑に触れると、心がクリアになります。コロナ禍以前は旅によく出かけていましたが、気兼ねなく旅行もできなくなったこともあって、自分が観たいと思う風景を描いてみました。

──自然を求める気質は、地元が高知であることも関係していますか?

関係していると思います。生まれ育った場所は高知のなかでも山際で、空と山と川の存在が大きかったですね。東京にも10年間ほど住んでいましたが、整備された人工的な緑であまり落ち着かなくて。自然との距離感でいうと、京都はちょうどいい。山も川も近いし、食や文化に触れる環境も豊かで過ごしやすい街です。

──京都の風景からインスピレーションは得られますか?

日が沈むころに鴨川でボーッとしていて、山の稜線の向こう側が明るく光ると感動します。日が沈むのとは反対の東側の方角なので、夕陽の反射でしょうか。光が黄色っぽい日もあれば、少し赤みがかっている日もある。一般的なイメージだけで自然は描かなくてもいいんだな、と風景から学ぶこともあります。

──好きな季節はいつですか?

5月ごろ、新緑の季節ですね。植物が持つ黄緑色の美しさ、まぶしさが一番際立つ時期。そこから日が経って黄緑色が濃い緑色に変化していくのがまた観ていて楽しい。叡山電車に乗って、京都市左京区の八瀬(やせ)のほうに行くと、両脇の車窓に青紅葉の美しい景色が広がります。秋の赤い紅葉ではなく、青紅葉のほうが爽やかな色をしていて好きですね。

──今回描いた作品について、ご説明いただけますか。

旅先で観たい景色は何だろうと考えて、思いついたのが瀬戸内海の風景でした。地元高知の海は太平洋に面していて、割と荒くて濃い青色です。瀬戸内海は穏やかで、小さな島がポコポコと浮いているのがかわいくて大好きなんです。オリジナル作品として瀬戸内海の風景画を描くことも多いですね。瀬戸内の山や海を眺めながら黄昏れていると、頭のなかが空っぽになって心が浄化される感覚があります。

直感で筆を走らせる

──「Breath of Fresh Air – 新鮮な空気を胸いっぱいに」というテーマで描いた、もう1点の作品について教えてください。

コロナ禍以前に訪れた、京都市西京区にある西芳寺の風景画。さまざまな種類の苔が境内にあるため、西芳寺は「苔寺」とも呼ばれています。小さな池が点在するなかに苔がワーッと広がる幻想的な場所で、苔庭は極楽浄土を表しています。最初は白色の部分を苔の黄緑色で塗るつもりでしたが、雪が降ったら白色になるよなと思って、手を加えることをやめました。絵を描く途中でよく額に入れて飾ってみるのですが、白色の状態で観た感じの配色がよかった。ほとんど感覚で生きている人間なので、急に完成を決めることもありますね。

 

水辺と木々と雪と(2021年)

水辺と木々と雪と(2021年)


──下描きには時間を掛けますか?

下描きが好きではなくて、必要がなければしません。下絵のほうが自然に線や形を描けていることが多すぎて、あるときから下絵を描くことをあきらめました。初めの気持ちの入り方や感触を大切にしていて、筆の入る角度が少し違ったとしてもその後にバランスを調整していくことができます。書道の感覚に近いかもしれません。

──今回使用した画材はどのようなものですか?

アナログで描く場合は、鉛筆・オイルパステル・アクリル絵具を気分で使い分けたり、組み合わせたりしています。色鉛筆で描いていてもイメージに近い色がなければ、アクリル絵具に切り替えたり、画材よりも色ありきです。

──デジタルも使いますか?

アイコンのような単品の小さな絵であればデジタル、広い一面を使う絵であればアナログ、という使い分けをしています。京都山科の無印良品からの依頼で『MUJI BOOKS』の冊子に載せるマップを描く仕事が以前あって、Adobe Fresco、iPad Pro、Apple Pencilを使いました。筆の水量から滑らかさも選べて、色の塗り重ね方、素材感の出し方も今はだいぶ進化しています。デジタルのペンを使う感覚もだいぶ慣れてきましたね。私は相当なクセ字なんですけど、iPad Proで描いても手描きの文字が再現できています。アナログでは色と色が混ざると濁ってしまうことも多いのですが、Adobe Frescoではどんなに混ぜても色がクリアできれいなままで重宝しています。  

無印良品 京都山科『MUJI BOOKS』(良品計画)
冊子用マップ/2021年

無印良品 京都山科『MUJI BOOKS』(良品計画)
冊子用マップ/2021年

草と本のこと

──京都のアトリエスペースについて教えてください。

2020年8月から、京都の町家で「草と本」を運営しています。アトリエ・宿泊・レンタルスペースが合わさった場所です。元々友人がゲストハウスをしていた場所を引き継ぐ形でオープンしました。宿は1日1組限定で、実は京都市内から来る女性おひとりの方が多くて。「自宅ではない場所で読書したい」「普段と違う空気を味わいながらゆっくり過ごしたい」と宿泊者は話します。私自身、心や身体を整えることに興味があって、アイデアや癒しの源になる「緑」と「本」のある空間を作りました。

 

ダイモンナオさんが運営するスペース「草と本」内観

ダイモンナオさんが運営するスペース「草と本」内観。


──本は人に刺激や興味を与えて、新たな風を吹かしてくれるものですよね。

単純に情報がほしい場合はWEB記事などで構わないのですが、自分の感性に響くもの、何か気づきが得られるものを求めているときは、本に触れるといい気がします。ブックカバーのワークショップを開いたりと、本に携わる仕事をしている方もよく来られる場所で、私自身もイラストレーションをとおして本に関わる機会も多い。宿の本棚は生活・芸術・文化のジャンルが中心で、女性ならではの生きづらさに寄り添う本も置いています。買いそろえているというよりは、友人が渡してくれたりして自然と集まって本棚ができていますね。

──敷居が低くて、いろんな人がゆるりと訪れて、また旅立っていく場所のように感じます。

飲食の提供もしていて、食にアンテナを張っている方々も来られます。私も娘もアトピー体質なこともあって、身体に負担をかけない食材を選んで調理しているので、安心感があるのかもしれません。

──どんな植物が好きですか?

私はきらびやかな花やがあまり好きではなくて、山野草や緑の植物が好きですね。昔から「草」という字が好きで、観葉植物にあまりない山野草のような草が持つ緑色が好き。植物は人にデザインされたものではないのにおもしろい造形をしていて、いつも「いい塩梅やなぁ」と感心します。アトリエの庭で育てているマユハケオモトという植物はお気に入り。高知新聞のフリーペーパー『K+』で毎月エッセイと絵を連載していたときに大きくその絵を掲載してもらったことがあって、うれしかったです。

 

『K+』vol.89(高知新聞)
はじまりエッセイ「日々のこと」挿絵/2014年

『K+』vol.89(高知新聞)はじまりエッセイ「日々のこと」挿絵/2014年

心がほどけるきっかけを

──ご自身の絵は、社会においてどのような役割を担ってほしいですか?

絵にかぎらずですが、人を癒す助けになりたいです。絵といってもアーティスティックな絵もあって、それはそれで刺激のある作品としてかっこいいけど、観てホッとする絵を私は描きたいかな。「草と本」もそうですが、人の気持ちがフッとゆるむようなきっかけを作りたいです。

──今後、どのようなシーンで使われる絵を描いてみたいですか?

部屋で飾ってもらえるような絵を描きたいです。日本でも、インテリアショップや家具屋で絵を展示・販売する機会が増えているように思います。自分の生活に絵があるイメージが湧きやすいから、とてもいいことですよね。明るい色合いの絵で元気をもらいたいときもある。静かな絵が心地いいときもある。年中同じ絵ではなくて、部屋に飾る作品はどんどん変えていっていいと思います。家具や生活空間そのもののように、その時々の暮らしに合わせて、自分自身が息をしやすいように選択をしていくことが大切ではないでしょうか。

──「草と本」でもダイモンナオさんの絵は観れますか?

最初は恥ずかしくて飾っていなかったのですが、周りから「なんで飾らないの?」と聞かれることが多くて今は飾っています。お問い合わせいただければ、作品を購入することもできます。自由に旅ができるようになったら、新鮮な空気を吸いにぜひあそびに来てください。お待ちしています。
■Adobeサイドのインタビューはコチラ
 

■AdobeStockへのご登録はコチラ

 

ARCHIVES