COLUMN

この仕事、好きだなぁ

2014.09.20

小林泰彦さんの仕事、イラストルポ(小池アミイゴ)

山と渓谷社から隔月で発刊されている山歩き雑誌「ワンダーフォーゲル」の8月号から、小林泰彦さんのイラストルポによる連載「小林泰彦の歩いて探して出会ったワールド」が始まったので、うれしくなってページをめくったら、やっぱ、うれしくなっちゃったな~!

このヌケッとした空気感が、見る者を山に誘う創造力に変わる。

実際に歩いて登ってルポルタージュするスタイルで、「日本百低山」なんて著作もある方ならではの、リアルとユーモアのバランスが品良く保たれている絵。

「ボクもこんな風に描きたい!」と何度もチャレンジしてるのだけど、どうにも無駄に描き過ぎちゃったりで上手くいかない。

優しそうに見えてなかなか険しい山なのだ、ヤスヒコさんのヌケッとした絵!

そもそもボクは「山と渓谷」という雑誌が好きで、それは美しい山の写真と共に、小林泰彦さんのイラストレーションが見れるからだったはず。

お金の無い学生時代、山に行くあてもないのにこの雑誌をめくり、「ああ、山、きれいだなあ~」「こんな沢を歩いたら気分いいんだろうなあ~」なんて夢想に浸りつつ、同時に掲載されている山歩きグッズのかっこ良さにもため息。

『とりあえずホーロー引きのマグカップだけは買ってインスタントコーヒー飲んでみました』みたく、薄~く物欲を満たすのが精一杯だったけどね。

ボクにとっては実用誌というより一流のグラフ誌であった「山渓」は、いつか「ボクが仕事をしたい雑誌ベスト5」にランクインされるようになっていました。

では、編集者にとって小林泰彦さんのイラストレーションはどんなものなのだろうか?と、

「ワンダーフォーゲル」の編集長、山本聡氏にインタビューをしてみました。

Q.誌面にヤスヒコさんの絵を使うという判断は編集者のものですか?

 それともデザイナーによるチョイスですか?

A.今回の連載は、私からこんな企画はどうでしょうかとヤスヒコさんに相談に行ったのが発端ですが、ヤスヒコさんとアレコレ話をしているうちにヤスヒコさんに主導権を握られて......。それで、おもしろい企画にまとまりました。

Q.誌面でのレイアウトにヤスヒコさんは関わりますか?

A.イラストルポ、つまり「文とイラストレーション=小林泰彦」の場合、フォントで組むタイトルや柱、本文書体はデザイナーが提案しますが、全体のレイアウトはヤスヒコさんの主導で決めています。

Q.ズバリ、ヤスヒコさんの山の絵の魅力について編集者としてお答えください。

A.高度成長期の60年代、ビートルズが来日しアイビーファッションが流行、ミニスカートが街を闊歩していたそのころ、都会の雑踏から逃げるように夜行列車で山に向かう寡黙な“山ヤ”たちがいました。世間から見れば、重いキスリングを背負って登山をする人間は世の流れから取り残された不器用な人種、そんなイメージを持っていたのではないかと思います。そんな時代に若きヤスヒコさんは月刊『山と溪谷』の表紙画を担当します。表紙のなかでヤスヒコさんが描くその“山ヤ”たちは、しかし、前を向いていきいきと山に向き合う「カッコいい山男たち」でした。

ヤスヒコさんは、「ボクはホンモノを探して取材したい、描きたいんですよ」とよく話されます。

ヤスヒコさんの温かいまなざしは、あの当時、槍や穂高、谷川岳一ノ倉沢に向かうピュアな山男たちに向けられていたのです。ヤスヒコさんの70年から80年代の代表作に『ほんもの探しの旅』『ヘビーデュティーの本』(いずれもヤマケイ文庫)がありますが、現地までじかに訪ねて取材してみなければネタになるかどうかもわからない当時、ヤスヒコさんは「歩くイラストレーター」として国内はもとより世界を旅して最先端のカルチャーを目の当たりにし、驚き、その興奮をイラストと文とで表現してきました。そして、その取材哲学はいまも続きます。

「ホンモノのイラストレーターがホンモノを探し歩いて出会って描くホンモノの世界」。

デスクでググればなんでも探せる時代にあって、ヤスヒコワールドの魅力はこれに尽きると、ぼくは思っています。


注) “山ヤ”は「山屋」、「山に取り憑かれている人」みたいな感じかな。


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山本さん、ありがとう。

頂いたメールを夜中に開けて読んだら、

無性に泣けてしまったぜ、、


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小林泰彦さんと言えば、70年代に「イラストルポ」というジャンルで、平凡パンチやMEN’S CLUB、POPEYEなどの雑誌で活躍されていて、ボクはそこに描かれているIVYやヘビーデューティーというファッションやライフスタイルに、少なからずの影響を受けて育ってきた世代です。

今回小林泰彦さんの仕事を振り返ってみたら、なんと1977年に発刊された単行本「ヘビーデューティーの本」が、2013年の夏に山と渓谷社から文庫本として復刊されているではないか!

と、さっそく取り寄せてみることに。

さすがに古くさく感じるんじゃないかと想像していた内容が、いやいや「時代がやっと追いついて来たんだ!」て感じ。

「山ガール」なんて言葉も一息ついた2014年夏に吹き抜けた、37年前の風の新鮮さに驚きクラクラ。

ヘビーデューティーなコーディネイトでデフォルメされ描かれた男たちは、70年代の男ならではの色気を発していて、美しいなあ~!

IVYやヘビーデューティー、山登りなんていう、4~50年の時代の移り変わりでは「ヘタラナイ」カルチャーを愛し、描き続けること。

そんな趣味性の高い出会いを引き寄せてゆくことも、イラストレーターとしての醍醐味なんだよなと、つくづく。

TISでは、日本におけるイラストレーションの確立や成長を鑑みて、イラストレーションは「イラストレーション」と呼ぼうと、みなさんプライドを持って言われています。


ボクもそれに賛同し「イラストレーション」という言葉を大切にしているのですが、

が、しかし、

ヤスヒコさんの仕事は、その軽やかさや時代との整合性から、どうやっても「イラストルポ」としか呼びようが無いなあ~と。


「アート」や「芸術」なんて言葉も飛び越えて、ご自身の足で歩かれ生まれてくる小林泰彦さんの軽やかなイラストルポ。

そこに描かれる山も人もなんだか楽しげで、

やっぱ好きだなあ~

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